TVアニメーション「ぼっち・ざ・ろっく!」にハマってしまいました。
楽曲の格好よさ、声優さんのお声のよさ、キャラクターデザインのよさ、作画の細やかさ、背景のナチュラル感...などなど、その要因はいくらでもあるのですが、ここでは主人公の後藤ひとりの発言に焦点を当て、彼女が仄かに、しかし確実に成長していく物語を振り返ってみたいと思います。
ネタばれ的なものを含みますのでその辺はご注意くださいませ。
あと6,000字以上あります。。
それではよろしくお願いします。
#1 | 転がるぼっち
(私、次もいていいんだ...)
プロローグ。
小さいころからひとりぼっちの女の子、後藤ひとり。
他人との関わりをもちたい、他人から認められたい、という本心をずっと押し殺して生きてきた。
中学のある日。
偶然見かけたバンドマンが言っていた。
「バンドなら陰キャでも輝ける」と。
一筋の光が見えた。
父のギターを借り、すぐに練習を始めた。
こんなに何かに打ち込んだこと、今まであっただろうか。
高まる期待。
だがしかし、3年の努力の末に誕生したのは、「ギターが上手い独りぼっち」だった...
―
高校に入学しても誰とも話せないままのひとり。
いつものように公園で落ち込んでいたとき、彼女の世界を変えるできごとが起きる。
助っ人ギタリストを探していたドラマーの伊地知虹夏に偶然見つかり、初めてのメンバーと、初めてライブハウスで、初めてライブをすることになったのだ。
ずっと夢見ていた状況に喜びつつも、本番直前に我に返り自信を無くしていたところに、虹夏が「技術を求めるのは次からでいいから今日は楽しく演奏することだけを心がけよう」と励ます。
その何気ない言葉に対するひとりの心の声が(私、次もいていいんだ...)
夢のような時間がずっと続くわけがない、幸せは自分には縁がないという、ひとりの根底に流れる世界への怯え、またそれに対する「何も期待しない」という防衛姿勢が、崩れていく兆しが見えた瞬間でした。
まだ確信はできないけれど、もしかしたら自分の居場所ができるかもしれない。新しい世界が開けるかもしれない。
ずっとずっと抱えてきた不安の渦の先に見えた、わずかな安堵と期待。
それだけの感情が揺れ動いた声だったと思います。
#2 | また明日
「が、がんばりましゅ...」
虹夏とベースの山田リョウにひとりが加わった「結束バンド」だったが、ライブ開催費などの運転資金捻出のため、初ライブ会場であり虹夏姉、星歌が経営するライブハウス"STARRY"でバイトをすることに。
店すら一人では入れないひとりにとって、接客を伴うバイトは完全に未知の世界への大冒険であり、必死に断ろうとするもののコミュ障ゆえに意見を伝えることができなかった。
その際に自分の気持ちと正反対の言葉として出てしまったのが「が、がんばりましゅ...」
個人的には嫌なことを断れないという感覚にはあまり共感できませんが、ひとりのコミュ障の根底には優しい性格があることを考えれば納得の発言です。
初めて自分の居場所を提供してくれた命の恩人である結束バンドのメンバーに、自分のわがままで迷惑をかけたり嫌な思いをさせたくない。そんな思いがあったのでしょう。
そのバイト初日を理由をつけて休むために、仮病を使わず本当に風邪をひこうとするあたりからも、純粋な優しい人間性がうかがえますよね。
そう、ひとりちゃんはいい子なのだ。
#3 | 馳せサンズ
「やっあのっ...!」
ひとりが結束バンドに入ることになったのは、そもそも元メンバーのギターボーカルが突然やめたことがきっかけだった。
そのことを気にかけていたひとりは、同級生の喜多郁代がギター経験者であることを知り、意を決して声をかける。
バンドには入れないと断られてしまったものの、ギターを教えるために喜多をSTARRYへと案内していたひとりは、出迎えた虹夏とリョウによって彼女こそが元メンバーのギターボーカルであると知る。
喜多はリョウとの関係を築きたかっただけという動機の不純さ、一度逃げ出した自身の無責任さを理由に結束バンドには戻らないと改めて宣言し立ち去ろうとするが、彼女の手に触れてギターの練習を継続していたことを察したひとりは喜多の発言が本心ではないと気づく。
そうして必死に喜多を呼び止めようとした言葉が「やっあのっ...!」
自身が他人から居場所を作ってもらったばかりでありながら、もしかしたらだからこそ、同じことを他者に対して行おうとする発言で、ひとりの優しさと成長が現れたものだったと思います。
引っ込み思案な人って共感性がとても高いんですよね。
やりすぎなくらい共感してしまうからこそ、自分の行動に対する相手の感情変化をいくらでも想像できてしまって、そのうちのネガティブなものに引っ張られて身動きが取れなくなってしまう。
そのブレーキを思い切って壊しに行った、がんばった瞬間でした。
#4 | ジャンピングガール(ズ)
「あ、あのっ...!わ、私、がんばります。」
喜多が合流しフルメンバーが揃った結束バンドは、いよいよオリジナルソングの作詞作曲を始める。
作詞の大役を任されたひとりは暗い言葉しか紡ぐことができず、一度は無理をして明るい歌詞づくりに挑戦するも大苦戦。
焦っていた中でリョウに相談したところ(すごい!)、「個性を殺してしまえば死んでいるのと同じだ」と、自然体で思いのままにひとりが紡いだ歌詞をみんな求めているのだとアドバイスを受ける。
その別れ際にひとりが宣言したのが「あ、あのっ...!わ、私、がんばります。」
語尾まで強く言い切る、力強い決意が現れた言葉に少し驚きました。
他者との関係を自ら求めに行き、他者から励まされることで自身を鼓舞する。
当たり前のことなのでさらっと流してしまいそうにもなりますが、ひとりがそうしたと考えるとすごいことですよね。
一応「作詞作曲のパートナーへの相談」という大義名分があったからこそ取れた行動ではあると思いますが、それでも確実に行動力が増してきていることを意識させられる発言でした。
私の場合は、仕事が絡むコミュニケーションはいくらでもできるのですが、話す必然性が薄れてくると途端に話せなくなってしまいます。。ので、この時のひとりとあまり変わらないかも。
#5 | 飛べない魚
(このまま、バンド終わらせたくない!!)
曲が完成し練習に励んでいた結束バンドだったが、STARRY店長の星歌にオーディションを突破できなければ出演させるつもりはないと、ハードルを課せられる。
「バンドとしての成長を見せよう!」と意気込む虹夏たち。
そんな中ひとりは、「バンドとしての」「成長」とはどんなものなのか、悩んでいた。
ひとり個人についてだけ考えても、ただスタートラインに立っただけで実はまだ何も成長などしていないのではないか...と分からなくなるのに、ましてやバンドとしての成長とは?
迎えたオーディション当日。
バンド活動の動機である、有名になってチヤホヤされたいという思いは変わらないが、喜多、虹夏の思いに触れたひとりは、自分のことだけでなくバンドメンバーにも思いをはせ、オーディションで失敗し結束バンドを停滞させておくわけにはいかないと決心する。
その心の声が(このまま、バンド終わらせたくない!!)
これがきっかけで初めて人前で本来の演奏をすることができたというシーンですね。
周りと呼吸を合わせつつさらに日頃の実力を出せたということは、バンドマンとしてはミジンコ以下だったひとりが階段を何段も上ってきたことの現れです。
本人は自覚していませんでしたが、これこそがひとりの成長、結束バンドの成長でしょう。
私は個人プレーが多く、チームとして成長することを目標に何かに打ち込んだ経験があまりないのですが、これはこれで他では得難いものがあるのだろうなと容易に想像できるお話でした。
#6 | 八景
(そうか、はじめから敵なんかいない......!)
オーディションにも合格し幸せいっぱいの時間が訪れるかと思いきや、ライブチケットの販売ノルマが課せられ一気に落ち込むひとり。
5枚のノルマに対し、ひとりサイドの戦力は父、母、妹、犬の4名。
さらに追い打ちをかけるように妹、犬が戦線離脱...すなわち完全新規に3名の追加戦力を確保し、チケットを売らなければならない...!
見ず知らずの人にいきなり声を掛けられるはずもなく途方に暮れていたひとりの前に、突然酔っぱらいのお姉さんが現れる。
その人こそ、のちに結束バンドに大きな影響を与えることになるベーシスト、廣井きくりだった。
事情を聞いたきくりは、チケット販売のため即興路上ライブを提案。
いつも通りにコミュ障を発動し断ることができなかったひとりは、あれよあれよという間に初の野外演奏、初の野外ライブの当事者に。
ところが当惑し、怯えながらもいざ始めてみると、実はお客さんは怯える対象でも敵でもなく、むしろ自身がよい影響を与えたい、喜ばせたい存在にもなりうることに気づいたのだった。
その時の心のセリフが(そうか、はじめから敵なんかいない......!)
この気づきがのちの8話でひとりの原動力になっていると思うと、感慨深いですよね。
例えばネットに制作物を公開したとして、いいねをくれる人は少しでも、なんだかんだで声なきチラ見層にもじわっとよい影響を与えることができているかもしれない。
そんな気がして、少しあったかい気持ちになりました。
(デモミンナイイネクレ!!→ こはくがわ|cohacugawa )
台無しで草。
#7 | 君の家まで
「ぁあのっ!ねねねんのためにつつくりませんか....!てるてる坊主!」
つ、ついに後藤家に、ひとりの友達来(きた)る!
ゆかいな仲間たちと楽しいひと時を過ごし()、さらに互いを理解していく結束バンドの面々。
フルメンバーで挑む初ライブに向けて準備万端と思われたが...台風が接近中との報が。
予想進路に関東が含まれないことを知り安堵したメンバーだったが、ひとりだけはどうしても不安をぬぐいきれず、思い切って全員でてるてる坊主を作る提案をしたのだった。
その呼びかけが「ぁあのっ!ねねねんのためにつつくりませんか....!てるてる坊主!」
バンドのことを誰よりも考える純粋な気持ちの現れとはいえ、ともすれば個人のわがままとでも言える提案を複数人にしたことは、メンバーとしての自覚と、周囲へ影響を与えることへの恐怖感が徐々に薄れてきていることを実感させるものでした。
「気にしすぎじゃん」と一蹴されることなく、「そうだね、じゃあ作ろっか」と認めてもらえるんじゃないか、という信頼感を持てていないとなかなか出ない発言だと思います。
#8 | ぼっち・ざ・ろっく
「ギタリストとして、みんなの大切な結束バンドを、最高のバンドにしたいです!」
ついにやってきたライブ当日。
ひとりの予感は的中し、東京を台風が直撃していた。
お客さんもまばらでメンバーも落ち込む中、ライブ本番が始まった。
緊張と戸惑いでバラバラな演奏をしてしまう彼女たち。
全く乗れないままズルズルと進んでしまいそうになった時、ひとりが、覚醒した。
「演奏も曲もまだまだだ.......けどッ!このままじゃイヤだッ!!」
―
打ち上げの居酒屋で、席を外して戻ってこない虹夏を気にして外に出たひとり。
2人だけの話の中で、改めてバンドを続ける理由を訊かれての言葉が、「ギタリストとして、みんなの大切な結束バンドを、最高のバンドにしたいです!」
皆さまご存じの神回ですよね。
虹夏に宣言したこの言葉は、自身が結束バンドになくてはならない存在であるとついに認め、そのことに対する覚悟を示したものだったと思います。
初めて見つけた自分の居場所に対して、ついに怯え、疑いを100%払しょくできたこと、またそれを周囲にも公言できたことで、後藤ひとりの仄かな成長物語は一旦の完成を見たといってもよいかもしれませんね。
それにしてもギターソロ格好よかった...
#9 | 江ノ島エスカー
「きょ、今日は、みんなと遊べて、楽しかったです。明日から、がんばれそうです。たぶん。」
夏休み最後の日、8月31日。
休みならではのことを何もできず、ついにtropicallove foreverな幻覚を見たひとりを心配したメンバーは、揃って江ノ島へ行くことに。
久しぶりの遠出、友人たちとは初めての遠出で、ひとりは無事必要な栄養素を十二分に摂取することができたのだった。
そんな帰りの電車内、喜多と2人での会話の中でひとりが自発的に発したお礼の言葉が、「きょ、今日は、みんなと遊べて、楽しかったです。明日から、がんばれそうです。たぶん。」
誰かに話を振られての返事でもなく、別に必ず言わなければいけないわけでもない、そんな言葉がさらっと出るようになった。
結束バンドの中でだけ、ではありますが、少しずつ自然体でリラックスした言動が増えてきましたね。
あとは虹夏のしらす丼推しが地味に強くて味わい深かったです。
#10 | アフターダーク
(やっぱりバンドって、最高に格好いい...!!)
学校の文化祭が近づいてきた。
体育館ステージでバンド演奏が募集されていることを知ったひとりだったが、陽キャのみが許されるはずのそのステージに自身が立つことにどうしても戸惑いがあり、申し込めないでいた。
星歌やバンドメンバーに相談すると(すごい!)、「ぜひ出演したいが、ひとりの悔いがないように焦らず考えてみて」と優しい言葉をかけられる。
結局自身では申込書を出すことができなかったが、じつは記入済み用紙を見た喜多が、代理で提出してしまっていたのだった。
それを知ったひとりと、それをなだめるメンバーin STARRYという構図に、きくりがふらりとやってきた。
事情を聞いたきくりの誘いで、一同は彼女が所属するバンドのライブを見に行くことに。
そこで初めてきくり達の演奏を目の当たりにしたひとりの心の叫びが、(やっぱりバンドって、最高に格好いい...!!)
演者はライブの間は本当にヒーローなんだと、ギターを始めたころの憧れの気持ちがよみがえった瞬間でしたね。
そのおかげで文化祭ライブに出演する決心がついたし、ある理由で謝る喜多ちゃんにお礼を言うこともできた。
ひとりの人柄がよい仲間たちを呼び寄せたんだなぁとしんみりしました。
少し接しただけではその魅力が伝わらないことが、引っ込み思案な人たちにとってすごく不利に働いていますよね。みんなひとりのように救われてほしい。
とか言っている私も...他人事では全然ないんですけどね、あはは。
#11 | 十二進法の夕景
(予想通りじゃ、なかった...!)
文化祭1日目が始まった。
なんとかクラスの出し物であるメイド喫茶を乗り切ったひとりと、結束バンドメンバーは2日目のライブ本番に向けて、最後の練習をSTARRYで済ませた。
そして2日目、本番の日。
ものすごい緊張状態の中、幕が上がる。
喜多に向けられる大きな歓声。
やっぱり自分は誰からも見られていないんだ...
そう思ったひとりの目に、家族やファン、クラスメイトの姿が映る ―
(予想通りじゃ、なかった...!)
#12 | 君に朝が降る
「今日もバイトかぁ」
あんなことやこんなことがあった文化祭ライブ。
たくさんの人に、少しだけ、自分を知ってもらえた。
新しい自分だけのギターも迎えて、少しだけ、変わった日常。
そんなある日の登校中、ひとりはつぶやく。
「今日もバイトかぁ」
あまりにもあっけない、なんてことないセリフ。
人によっては、半年もかけて1人の高校生がバイトに行けるようになりましたってだけの話!?と拍子抜けするかもしれません。
でも彼女にとっては、こんなこと半年前には考えられなかったよなぁ、と思うのです。
外から見たら小さな一歩、なんなら半歩しか進んでいなくても、本人にとっての重みには関係がない。
当たり前のことですが、それをよく理解できている人たちが本気で作り上げたからこそ、緻密で繊細な物語ができたのだと感じられました。
私も半歩ずつでも進んでいけばいいと、及び腰で長年手を付けられていなかった、デジタルでのお絵描きを始めました。
まだまだ「ぼっち・ざ・ろっく!」のキャラクターを真似て描くことしかできませんが、楽しんでのんびりやっていこうと思います。
そのうちblogにも載っけます(もうTwitterにはありますよ、えへへ)。
―
こんな駄文を最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
せっかくのご縁、陰キャ同士(?)、コメントでもTwitterでも、よかったら語りましょう。
お待ちしています。
転がるぼっち、君に朝が降る
#1 | 転がるぼっち
(私、次もいていいんだ...)
#2 | また明日
「が、がんばりましゅ...」
#3 | 馳せサンズ
「やっあのっ...!」
#4 | ジャンピングガール(ズ)
「あ、あのっ...!わ、私、がんばります。」
#5 | 飛べない魚
(このまま、バンド終わらせたくない!!)
#6 | 八景
(そうか、はじめから敵なんかいない......!)
#7 | 君の家まで
「ぁあのっ!ねねねんのためにつつくりませんか....!てるてる坊主!」
#8 | ぼっち・ざ・ろっく
「ギタリストとして、みんなの大切な結束バンドを、最高のバンドにしたいです!」
#9 | 江ノ島エスカー
「きょ、今日は、みんなと遊べて、楽しかったです。明日から、がんばれそうです。たぶん。」
#10 | アフターダーク
(やっぱりバンドって、最高に格好いい...!!)
#11 | 十二進法の夕景
(予想通りじゃ、なかった...!)
#12 | 君に朝が降る
「今日もバイトかぁ」